昨日でもなく明日でもなく…「今、ここ」におられる神さまと出会う

ふぅ…

仕事を終えて買い物をして帰路につきながら、買い物というのは、少し先の未来も自分が生きている事を当たり前のように念頭に置いて、商品を選び、過去に働くなり何らかの形で得たお金を対価として払う行為だなぁなどと面倒なことを考えていました。

そして混んでいる電車のドアが開くなり我さきにと席に座る人々の間に座りながら、買った布でスカートを縫うことを考えています。このように、心は「今、ここ」にいることは少なく、未来のことや過去のことを考えています。

ところが、ふと「今、ここ」の電車の中に引き戻される出来事が起こります。

私は大柄なほうで、電車の席にはあまり余裕が生じません。

隣に男性が足を広げて座ってきて、ひざがぶつかります。おまけに足を踏まれます。

身体の感覚から、不快だという評価が生じ、なぜこの人は謝らないのか、わたしが女だからばかにしているのか、等々どんどんと心はさまよい出て行きます。

疲弊して、電車を降り、ふと美しい羽根のような雲が広がる空を見ます。

そして帰り道にある教会の十字架を仰ぎ見、ロザリオを祈ります。

「わたしは、天地の造り主、全能の父である神を信じます」と使徒信経を唱え始めるところで、さっきの男性に追い抜かされました。

神さまはこの人をお造りになった。わたしも、友達も家族もお造りになった。

それは、なんのためなんだろう。ほんとうはなにか、善いことのためなんじゃないかな？

最近のわたしは、仕事に疲弊していて、一方でお金は自転車操業で、ごはんを買って栄養ドリンクを飲んで仕事をしては、わずかなお金でまた仕事に行くためのごはんを買う毎日でした。

仕事をすることで、人はだれかのお役に立つことができるけれど、残念ながら、今のわたしにはわずかなお金を得るために人生の持ち時間を売っているという感じしか、していませんでした。

加えて、さっきあった嫌なこと、これから先の不安など、いろんなことを考えすぎていて、頭がパンクしそうです。

…緑あふれる歩道を歩くと、鳥の声、蝉の声、通り過ぎていく虫たちの姿にふれます。

そうだなぁ。このいきものたちは、きわめてシンプルに生きている。今、おなかがすいたから、獲物をとって、子孫を残すために鳴いている。

人間は、それらより高次ないきものだっていうていで生きているけれど、生きているということ、自分がいきものだということに意識的に生きているだろうか。それどころか、余計な事を考えまくって、お昼休みに食べているごはんの味でさえ、感じずにおろそかにしているんじゃないのか。

などと考えます。

こうした考えの源泉は、たびたび修道院で修業の恵みにあずかってきたマインドフルネス瞑想です。

今、息をしてすわっている、その体の感覚だけ

歩いている、足の感覚

食べている、食感と味

そうしたものに徹底して「ありのままに気づいて」いく営みで、

そこには「将来、お金が十分にあるだろうか」とか「さっきのおじさんむかつくな」などの未来や過去は持ち込まれません。

人は、脳を発達させているからこそ、むしろ「今、ここ」にとどまることが苦手です。

でも、そのマインドフルネス瞑想の指導をしてくださった神父様は、「今、ここ」にこそ、神さまはおられるとおっしゃいます。

その点、「今、ここ」を生きているのは、むしろ歩道にいるいきものたちなのかもしれません。

人間は、余計な事を考えすぎるのではないか…

いきものたちは、神さまがその瞬間瞬間に差し出されるものを、あまさず受け取っているのではないか…

むしろ彼らを尊敬する気持ちがわいてきさえします。

福音書の中でイエス様は、「からすのことを考えてみなさい。種も蒔かず、刈り入れもせず、納屋も倉も持たない。だが、神はからすを養ってくださる。あなたがたは、鳥よりもどれほど価値があることか。」（ルカ12：24）とおっしゃっています。

いきものは何時まで働いたら時給いくらだ、と計算もせず、その瞬間瞬間を生きています。

納屋も倉もないので、将来のことを悲観してためこむこともしません。

神さまの計らいをいっしんに受けて生きているのはむしろ彼らなのではないかとさえ思います。

でも、人間には価値があるというのです。この箇所を初めて読んだ時の幼いころのわたしは、当たり前だろう、人間の方が賢いのだから、と思っていましたが、上記のような思いから、その考えにも最近はすこし疑問があったのでした。

ロザリオを祈り進みながら、なるべく指先の「今、ここ」の感覚にのみ意識を向けるようにしました。

すると、こんな想いに至りました。

ひとりひとりの人は、なにか善いことのためにこの世に生まれてきたんだ。

その役割はみんなちがう。

それに気がついて、よろこんでささげる人生が、神さまの喜ばれる人生なんだ。

「老後までに2000万円貯めて」自分の人生をキープしておくのも、安全策ではあるけれど、お金は天国に持っていけない。

それより、神さまのギフトであるわたしの今、ここの毎秒毎秒を、取り逃がすことなく生きたい。

西洋の伝統的な神学では、哲学者や神学者などの権威を持った人が述べたことを「常識」のようにし、自分視点ではなく、俯瞰で、客観的、普遍的に考える営みの歴史が長かったようです。

でも、今回、東洋の瞑想から、生きているなまみの人間である自分の視点から、身体的に、感情の面からも黙想したのは、上記のようなことでした。

神さまはこの世を愛されている。

そのひとり子を、生身の、生きた、痛みも喜びも感じる人間として送ってくださったほどに。

くよくよしたり、不安になったり、自分をいい、わるいって決めるのもお休みして、シンプルに生きていきたいと願うのです。